エールよとどけ！#001「それでも春は来る」
朗読・ナレーション：カタヨセヒロシ

春が来た。

あたたかな日差し。青い空。
もうTシャツでいいよと言われているような気温。
花の匂いが混じる　春の野風が　時折強く吹いてくる。

春が来た。

これまで何度も体験した春。
自分にとって記憶に残る春はいつだろう？
子供の頃の記憶が浮かんだらいいなと思うのだけど、全然出てこない。

浮かぶのは9年前の春だ。
あの桜は本当に綺麗だった。
あの頃は何も手につかなくて　鎌倉の桜を撮影して回っていたから　特に印象に残っているのかもしれない。

あの時は　「あの時の『今』」を記録したいと思っていた。
これからどうなるか分からない　ピリピリとした胸の痛みや　焦りや　不安。

そんなことを　知らず知らずに感じていたのだと思う。
そしてそれを　どこかへ流してしまいたかったのだと思う。

ただそこにある桜を
人の手では到底かなわない「自然」や
その「変化」を記録することで
胸の中にあったそれらを
落ち着かせたかったのかもしれない。

自分のいる世界が不確かに感じられ　どうしていいかわからなかった
自分のいる世界が不安で　窮屈で　先が見えなかった
そんな　あの頃に見た　桜に
大地に根を張り　青空へ枝を伸ばし　春風に舞い散る桜の花びらに
僕は憧れた。

春が来た。

今年の桜も綺麗だ。
桜は分かっているのだろうか。
蕾をふくらませる時を。
花を咲かせる時を。
冬の厳しい寒さと　芽吹き間近の春の陽気を繰り返し
今年も花開く時を。

でも　僕たちにとっては　今はまだ冬なのかもしれない。
春のささやきと騒めきに心惹かれながら、まだもう少し冬が続くのだ。

それでも
春は来る。

そちらはどうですか？
きちんと食べて、よく寝ていますか？
また会えるのを楽しみにしています。
また会いましょう。
必ず。